PROJECT
植物が有する潜在能力を代謝から科学する
代謝ネットワーク科学研究室の研究テーマは大きく分けて二つに分類されます(※テーマをこれらのみに限るわけではありません)
- ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)や液体クロマトグラフ(LC)といった分析機器による計測技術の開発
- 上記1の計測技術を用いた揮発性有機化合物プロファイリングおよび植物植物代謝ネットワークの解明
揮発性有機化合物プロファイリング研究
揮発性有機化合物(VOC)を介した
植物の根圏コミュニケーション
植物は自ら動くことができません。その代わりに植物特有の生存システムを発達させてきました。では、土の中で根を介したコミュニケーションは行われているのか?この問いに対し、VOCがかかわっているという仮説のもとに2019年から新たにこの研究をスタートさせました。
植物は生育している土壌環境条件(根圏)に対して敏感に応答します。その中で、アレロパシーに代表されるような植物特有のコミュニケーションスキルがあります。
本研究では、植物だけが感じることができる特有のにおい(VOC)が関わる植物の根圏コミュニケーション機構を明らかにします。この研究で発見したVOCは、異なる栄養条件下の畑で生育する野菜の品質・収量制御のためのマーカーとして応用します。
トマトの価値を高める「香り」の
生合成機構を解明する
人が知覚する「香り」は食品の風味に大きく影響します。植物が生産する香り成分をはじめとする揮発性有機化合物(VOC)の生合成量は、遺伝的な違い、その前駆体蓄積量、酵素遺伝子の転写調節など様々な要因によって決定されます。
本研究では、トマト品種の大規模スクリーニングを行い、前駆体の量が異なる品種間でメタボローム解析(香気物質・前駆体・その他代謝物の定量解析)と網羅的な遺伝子発現解析を行なってデータを統合することにより、植物中の香気物質の生合成を制御する鍵遺伝子群の探索を目的とします。得られた知見をもとに食味に優れた新品種の開発を目指します。
最高級の香り成分を付加する試み
植物は我々の生命活動に必須の材料(=代謝物)のみならず、健康、美容、および嗜好となるものも与えてくれます。この研究室では、企業および国内外の共同研究を通じて提供された非常に貴重なサンプルを使い、遺伝的背景との関連性を解析することで、限られた場所で栽培した品種からしか得ることができない最高級の香り成分の代謝制御機構を明らかにすることを目指しています。得られた知見をもとに既存の品種への香り成分の付加を目指します。現在は、コーヒーおよびサクラを用いた研究を行っています。
実用作物の代謝ネットワーク研究
緑色光は無駄ではない!
光質による植物代謝制御戦略を理解する
植物は光を有機的なエネルギーとして変換できる素晴らしい力を持っています。「赤色光」「青色光」によって生産される形態形成および生産される代謝物が異なることはわかっていましたが、それがなぜ起こるのかは未解明です。
高性能LEDが使用可能になったことで、光質が代謝物生産に与える影響をより詳細に解析することが可能になりました。私たちの研究から、これまであまり必要だと思われていなかった緑色光も植物バイオマスと物質生産に重要な鍵を持つことを世界で初めて明らかにしました。太陽光の中でどの光質が重要な役割を果たすかを理解することにより求められる形質を付加できるデザイナブルな植物工場の実現に繋げます。
窒素欠乏条件下での
植物の生存戦略を理解する
植物の生長に欠かせない窒素。しかし、過剰な施肥が環境汚染を引き起こしています。したがって、窒素利用効率の良い作物の開発が求められていますが、そのためには窒素代謝のさらなる理解が必要です。
窒素欠乏条件では植物は生育にブレーキをかけることでなんとか生き永らえようとします。本研究は窒素欠乏条件下に置かれたイネを材料に最新の解析技術を駆使し、遺伝子発現や、制御に関わるmiRNA、代謝物など多角的に捉え、生存戦略を明らかにします。ここで得られた知見をもとに低窒素条件下でも栽培可能なイネの品種開発を目指します。
植物遺伝子・代謝物ネットワーク解析
による”HUB”因子推定
測定手法の改良により南満という転写物の発現量を一度に測定することが可能になっています。また、メタボローム解析技術の発展により、遺伝子発現のみならず植物ホルモンを含めた代謝物蓄積量の情報も取得可能になりました。これを活用するため、統計学的手法を用いることにより重要形質に関わる遺伝子および代謝物を特定する研究が現在行われています。
本研究では、その一例としてトマトの単為結果性変異体と通常の個体のデータを比較することにより、単為結果性に関与している遺伝子の探索を行っています。
OTHER PROJECTS
国内外の研究者との共同研究を行っています。
(ご参考)これまで当研究室で獲得してきたあるいは課題遂行中の外部資金は以下の通りです。
酢酸溶液施用によるスギ苗の乾燥耐性機構の解明とコンテナ苗育苗技術への応用
2020-04 — 2023-03
丹下 健
/日本学術振興会/基盤研究(B)
近年ミャンマーより導入された低利用・在来ショウガ科植物独特の風味成分の分析
2019-10 — 2020-09
草野 都
/山崎香辛料振興財団・平成元年度助成金
狭波長LED照射に応答する植物メタボロームのデジタルケミカルマッピング
2019-04 — 2021-03
草野 都
/平成31年度(2019年度) 基盤研究(C)
農業環境エンジニアリングシステムの構築と植物-微生物共生を活用した営農法等の開発
2018-11 — 2023-03
市橋 泰範
/戦略的イノベーション創造プログラム(スマートバイオ産業・農業基盤技術)
ゲノム編集技術等を用いた農水産物の画期的育種改良
2014-12 — 2019-03
江面 浩
/戦略的イノベーション創造プログラム(次世代農林水産業創造技術)
メタボロ―ム解析技術を駆使した単一クローンサクラ品種が生 産する有用樹脂成分の包括的探索
2018-04 — 2020-03
草野 都
松籟科学振興財団/研究助成事業(平成30年度分)
カロテノイドを基質とするトマト香気成分の高感度・ハイスループット定量分析法の開発
2018-04 — 2019-03
草野 都
ヤンマー資源循環支援機構/平成30年度(2018年度)分助成金
低窒素で持続可能な二酸化炭素資源化のための中心代謝バランス制御機構の解明
2013-10 — 2017-03
草野 都
国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST)/JST戦略的創造研究推進制度(個人研究型) (個人研究推進事業:さきがけ研究21‐PRESTO)
トマトの単為結果の分子機構解明
2011-08 — 2016-03
江面 浩
イノベーション創出基礎的研究推進事業(技術シーズ開発型)